東北STANDARD

カネイリミュージアムショップ

協賛: キヤノンマーケティングジャパン株式会社

岩手県水沢区

南部鉄器

「南部鉄器」は岩手県盛岡市と奥州市水沢区で生産されている鉄器の総称です。
旧南部領の盛岡と旧伊達領の水沢では、それぞれに異なる鋳物の歴史を持ちます。
両産地では日本各地から呼びよせられた、鋳物師(いもじ)や茶釜職人達によって、
鉄瓶、鍋、釜以外にも、梵鐘や仏像から燈籠や大砲まで、様々な鋳物の製造が行われていました。

砂でできた型

溶解した金属を流し込み、型と同じ形をつくる為の型を鋳型といいます。「生型」は、水と凝固剤で砂を押し固めてつくられた鋳型で、一つの鋳型から複数の鋳物の製造が可能です。

南部鉄器の産地、岩手県水沢区にある「空間鋳造」では、現代の生活者の暮らしの中で、違和感なく使い続けれる鉄瓶を提案しています。デザイナーから鋳物師へと転身し独立した岩清水久生さんに、南部鉄器づくりについてのお話を伺いました。

― 南部鉄器づくりをはじめられたきっかけは?

僕の実家は盛岡で南部鉄器屋さんをしていたのですが、僕は最初からこの仕事をしようとは思っていなくて、以前は東京のデザイン事務所で働いていました。遠回りをしたんですが、その経験が改めて物を客観的に見るきっかけになったんですね。

― 岩清水さんはどんなお仕事をされていますか?

新たに工房を構えて独立して3年半足らずになりますが、それぞれの工程のスペシャリストが集まってくれたおかげで、現在は仕事が分割されています。僕の仕事というのは、オーケストラでいうと指揮者に近い仕事です。まずは彼らに、空間鋳造がどういう考え方で南部鉄瓶をつくっているかを理解してもらった上で何をつくるかということを共有して、間違った方向に進まないように舵をとるという仕事です。

― 空間鋳造の鉄瓶は、鉄の色が柔らかいように感じました。

商品には日本の伝統色を付けています。色を付けた後には火傷するようなお湯で洗って渇いた後に布で磨き上げます。そうするとしっとりしてきます。柔らかく感じるのはそういうことかもしれません。また、黒の色合いには漆を使わずに、タンニンの汁を使っています。漆が鉄瓶で使われるようになった理由には、錆びないことと、粘着率が良いこと、岩手の漆の出量が日本一ということです。ですが漆だと真っ黒で全てを消してしまうんです。タンニンであれば錆び止め効果があって、更に焼き色を起こしてくれる。そこに二層目の黒を塗っては磨き、というのを何十回も繰り返すと、“黒とは言い切れない黒”が生まれるんです。

― 過去につくられた鋳物からヒントを得たりはしますか?

僕は良くします。昔の作品や資料集は暇さえあれば見ています。当時は今と違って制作にかける時間が違うのはあきらかです。材料から吟味して時間をかけて形をつくり、最終的にいくつかできた中からお殿様への献上品として1つ選ぶ。その流れで現存する当時のものを、今つくろうとしても難しいと思うんです。材料にしても日本で一番良いものを使うことは難しいし、つくったものを商品として売ることも難しい。だけどもその精神や考え方を理解してその物を見て行くと、何かヒントはある気がします。当時つくられていた物は、シンプルでストレートにつくられている気がするんです。その良い部分を今の時代の工程に吸収させて、製品をつくることができればと思っています。

― 鉄という素材で、ものづくりの面白みを感じるところは?

やっぱり鉄の質感ですね。できあがった時は銀色で、それが錆びて、朽ちて、土に戻る。要は地球に戻っちゃう。それが最大の魅力じゃないでしょうか。無くなるものだからこそ感じる魅力。その存在自体の魅力です。

― 鉄の質感の魅力を引き出す為に、どんなアプローチをされていますか?

現段階では鉄を客観的に感じる為に、できるだけそのフォルムの中で絵柄を入れないようにしています。鋳肌という鉄の自然な質感を表現することで、ストレートに鉄の質感が伝わればいいなというのが1つの理由です。

― 南部鉄器づくりを通してどんなことを目指したいですか?

好きでありたいと思います。好きでなきゃやっていけないと思っているんです。だけど、僕はこの仕事がとっても格好いいと思っているんですよ。ただ、これだけの工程が買う方に伝わらないのは事実ですね。だからこそ真面目につくって、この鉄瓶が世に出ていって、何らかの形で響いて連鎖していけばと思います。鉄瓶をつくり続けることと、新たな鉄のテクスチャーを鉄瓶に限らずに編み出して行きたいと思いますね。反対のことのようですがその両方に着地していきたいと思います。

岩清水久生(いわしみずひさお)

1964年生まれ。岩手県在住。空間鋳造代表。盛岡市の鋳物工場に生まれ育ち、大学卒業後はデザイン会社に勤務。2009年に工房「空間鋳造」を設立し代表を務める。 南部鉄器の伝統を継承した製品の製造の他、鉄の固まりを彫刻のように削ってフォルムを作り上げる“焼肌磨き”による作品づくりを行い、鉄の圧倒的な素材感を活かした表現を追求している。2000 年ニューヨーク近代美術館 MOMA SHOP出品。2003年「'03日本クラフト展」優秀賞受賞。2004年「工芸都市高岡2004クラフトコンペ」グランプリ受賞。

空間鋳造

住所: 岩手県奥州市水沢区
羽田町字堀ノ内 33
電話番号: 0197-23-5100

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