東北STANDARD

カネイリミュージアムショップ

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青森県八戸市

南部伝承イタコ

イタコ。
「南部地方」と呼ばれる、青森県東部や岩手県の北部・中部には、現在でもイタコがいます。
街中に「イタコはこちら」なんて看板が出ていますし、飲み屋のおばちゃんが「昔、熱が出たらイタコさんにかかったわ」
なんて話してくれたり、その存在はわりと当たり前のように受け入れられています。
死者の霊を降ろす、本州の最果ての恐山にいる、おまじないで病気を治す、などと断片的に耳にするイタコの情報はとても不思議なものばかり。
この東北の南部地方特有のイタコという文化は、いつから始まり、どのように社会の中に存在してきたのか。
南部地方に伝わる由緒あるイタコの後継者である松田広子さんと、南部地方の郷土史を研究している江刺家均先生にお話しを伺いました。
「そもそも、イタコってなんですか?」

「最後のイタコ」松田広子さん、語る。

東北スタンダード(以下、T): 松田さんはどういう経緯でイタコになったんですか?

松田広子(以下、M): 小さい時に体が弱くて、母親が私を病院に連れて行っても、なかなか治らなかったようで。
その時に知り合いから、師匠を紹介してもらって、それでそこに通っていました。その時は「かか様」と呼んでいました。

江刺家均(以下、E): 南部伝承イタコの5代目、林ませ氏ですね。

T: 子どもの頃に通っていたイタコの方がそのまま師匠になったと。そのときは何が松田さんを惹きつけたんですか?

M: 治療を通じて興味を惹かれたというのもありますし、お供え物のお菓子や果物をたくさんもらっているのを見て、なんとなくいいなって思ったのかもしれません。
小学校の頃からイタコになりたいと思い始めて、中学校のときにそのことを伝えて修行させて欲しいと言ったんですけど、「受験してから来なさい」って言われてしまって……。
高校に受かったら、まだちゃんと弟子入りさせてもらったわけじゃないのに、師匠の家に無理やり押しかけました。

T: 押しかけた?

M: はい、ねじり込んだっていうやつですね。もう親も仕方ないなって。しぶしぶOKした感じでした。

E: で、お師匠さんからは「高校はちゃんと卒業しなさい」と言われて、高校に通いながら修行をした、と。

T: 修行はどんなことをするんですか?

M: 高校1年の夏休みから始まって、経文を覚えたり。
高校2年の頃には、師匠がお客さまを相手にしている間に、お客様の家の中のお祓いをしたり、そういうお手伝いをしていました。

E: イタコの修行には、もちろん水垢離(みずごり)とか、滝行とかもありますが、例えば、風の音に何を感じることができるか、鳥のさえずりに何を感じることができるか、周りに咲いている花に何を感じることができるか、そういうことがイタコの修行になります。
例えば、桜が例年より早く咲いたとしたら、その1年がどんな年になるかということを、「感じる」ことができるかどうか、それが修行になるんですね。

T: そういった感覚をフルに使って、お客様と対話するんですね。

E: そうですね。例えば桜が早く咲くということは、他の作物にとっては良くない天候かもしれない。花の咲き具合、付き具合をみながら、それが相談者にとって良い年になるのか、悪い年になるのかを感じていくことができるかどうか。そういうことがイタコの神妙ということになると思います。 もともと目が見えない方の職業でしたから、花の香りを感じる嗅覚が研ぎ覚まされる、鳥のさえずりを聞く聴覚が研ぎ澄まされる、それを感じて次を予測すること、そういう鍛錬をしてきました。

M: なんでも話してもらえるような、親しみやすさとか信頼感を持ってもらえるイタコが、良いイタコだと思っています。