東北STANDARD

カネイリミュージアムショップ

協賛: キヤノンマーケティングジャパン株式会社

岩手県盛岡市

郷土芸能と鹿踊、そして震災のこと。ー小岩秀太郎さん、語る。

郷土芸能ってなんだ?

金入健雄(株式会社 金入/東北STANDARD 代表/以下、金):
ここ盛岡のカネイリスタンダードストアには、「1WALL1TOHOKU」という小さなギャラリーを 設けています。
そのギャラリーの展示第一弾として、写真家・田附勝さんの作品を展示させていただいています。そこで、その田附さんの写真の被写体となっている、この「鹿踊(ししおどり)」という伝統芸 能について学びたいと思い、公益社団法人全日本郷土芸能協会事務局次長であり、東京鹿踊代表 であり、行山流舞川鹿子躍(ぎょうざんりゅうまいかわししおどり)を習い、鹿踊の虜になられ ました小岩秀太郎さんをお迎えして田附勝さんとのトークショウを開催する運びになりました。
私自身としてもわからないことが多く、伝統芸能についても、縄文文化についてもまだ体に染み 込んでいないのですが、田附さんや小岩さんのお話から学んでいこうと思っています。すごく初歩 的なところからうかがいながら、トークをさせていただければと思っています。
それではお二人の登場です。拍手でお迎えくださいませ。

小岩秀太郎(以下、小):
小岩秀太郎と言います。盛岡に来ることはなかなか無いんですけども、ここは本当に岩手かと思うくらい、みなさん標準語ですね。私ひとりだけ訛ってていいのかな。ちょっとびっくりしています。
今日は東京からやってきました。この鹿頭(ししがしら)を持って。(岩手県)一関市で僕がやっている行山流舞川鹿子躍(ぎょうざんりゅうまいかわししおどり)というところの鹿頭です。東京から満員電車で。こいつを背負って(笑)
小さい頃から一関で行山流舞川鹿子躍をやっていて、進学の時に東京に出て来ました。これから何年も帰ってこれないかも、と思って、それでも踊りだけはちゃんとやっていきたいなと思っていたので、「東京鹿踊」を立ち上げ、東京でも人を募りながら鹿踊をはじめとした郷土芸能のことを知ってもらいたいなと活動をし始めました。
郷土芸能は日本全国に何万とあります。さすがにそれをぜんぶ、というわけではないんですが、500、600人くらいの人たちが、公益社団法人全日本郷土芸能協会というネットワーク組織に入って、郷土芸能が抱えている課題を話しあいながら活動をしています。この団体は大阪万博の頃から続いているような団体です。
僕たちは芸能という切り口で東北を見ていますが、田附さんと一緒に、いろんな切り口で東北のことを見たり、語ったり、遊んだりできたらいいなと思っています。

金:
もう少し郷土芸能について教えていただけますか?

小:
では郷土芸能について解説しますね。昔、村々に住んでいる一般の人が、お祭りや集落の行事の 時に踊りや歌を奉納したり、それによって豊作や豊漁を願ったりと、お祈りごとをしていました。 お祈りごとは普通、神様や仏様に仕えている人がやるものなんですが、一般の人が歌や踊りをやっ ているというような、いわゆる芸能が全国にたくさんあるんです。岩手だけに多い、というわけで はなくて、どこの地域でも漁村や農村があるわけなので、そういうところの神社には人が集まっ てくるし、その土地独自の芸能がやられてきました。だんだん年月を経て、やっている人も歳を とってきたりして、芸能の「形」はわかるんだけど、「意味」がわからなくなってきて。そういう ものをもっと意味がわかるように、見える形にして、間口を広げるような形を作っていきたいな と思って、それで郷土芸能協会の一員として、イベントをやったり発信をしたりしています。

鹿踊の「しし」ってなんだ?

小:
ぼく自身は、小さい頃から鹿踊をやっていたんですが、それは一関市の郷土芸能だから、とか、伝統を継承する、とかではなくって、単純にかっこいいから始めて、大人みたいに踊りたいって思って続けてきました。
岩手から出てきて、自分のことを誰かに話すときに、「俺は小岩秀太郎だ」、「岩手の一関市出身だ」、「舞川鹿子躍だ」って言っても誰も興味ないと思ったんですよね。だから、まずは鹿踊のビジュアルを見て欲しいってずっと思っていた。
よくお正月に来て頭を噛んでくれる、体が緑の唐草模様の「獅子舞」って、全国にいっぱいあるんですけど、獅子舞の「獅子」っていうのは空想上の生き物で、中国とかペルシャの方から流れてきた渡来文化なんですね。それが京都とか都に入って広まったわけです。
一方でこの鹿踊っていうのはまた別の鹿(しし)のことで、獅子舞の獅子はライオンのことなんですけど、この鹿踊の鹿(しし)っていうのは、わかりやすくいうとイノシシの「しし」だったり、鹿のことを昔、”カノシシ”と呼んでいたので、その「しし」のことなんですね。もともと「しし」というのは、昔の日本の古語として、「食べる肉」のことを「しし」って言っていたんです。野獣の、山にいる獣の肉のことを「しし」と言っていた。つまり、人間が食べる肉のことですね。食べるときには獣を殺さなくてはいけないので、殺した後に「申し訳ない」と思う気持ちがあったのか、「ありがたい」という気持ちがあったのか、そういう気持ちをどうにかして伝えたいという人がいたんじゃないですかね。それが踊りとなった。鹿踊ですね。
そんな風に、300年とか600年とか続いている伝統芸能って日本にはたくさんあって、ぼくが所属している全日本郷土芸能協会で、獅子舞の全国大会をやったんですね。鹿踊よりも獅子舞の方が全国的に有名なんで。その全国大会が埼玉で開催されたんですが、意外にも色んな年代の人が見に来ていて。正直、年配の方ばかりだろうと思っていたのに、やっぱり獅子舞の色んなビジュアルを見に来たというか、本当に色んな世代の人が興味を持ってくれていて。ぼくは舞台上で踊っていたんですが、その顔を見て「ああ、もしかしたらこの鹿踊で食っていけるかもしれないぞ」ってなんだか思っちゃって。まあ食っていけてはいないんですけど(笑)なんかそのとき、ちょっとトチ狂っちゃったんですよね。

田附勝(以下、田):
それいつの時? 何歳?

小:
27歳ですね。27でトチ狂いました。10年前ですね。
今でもトチ狂ったままの状態で走り続けているっていうかんじですね。
ここに来て普通に鹿踊を踊ったとしても、やっぱり文脈がわからないことをそのまま見せられても何のことかわからない人が多いですし、説明できる人も少ないですし、魅力的に見せられる人もいないですし。できるだけぼくはそういうのをちゃんと「凄い」って言ってもらえるようにみなさんにアプローチしていきたいと思っています。
震災もあって、注目を浴びていると思うんです。そういう機会に芸能の意義というか、芸能に触れやすい状況を作りたいと考えています。田附さんの写真もそうだけど、これを見た時に凄いと思わない人はいないと思うんですよね。震災後に切に思ったのは、そういうものに直で触れられるような、足を運べるような状況を作ることができると良いな思って、協会の中でもそういうアクションをどんどん起こしていこうと思っています。でも協会自体もだんだん高齢化して行ってしまって、凝り固まったもやもやした部分があって、そこを突き破れていないので、いまはこうして個人的に色々な土地に、特に東北なんですけど顔を出して、みなさんとつながって、色々な提案ができればと思って活動しています。

震災でほじくり返されたもの。

金:
ありがとうございます。本当はもう少し後で聞こうと思ってたのですが、いま少し震災の話が出たので。震災の前後で何か影響はあったりしましたか?

小:
この中で芸能をご覧になったことがある方はいますか?

観客:
去年観ました。芸工大でやった時の......。

小:
ああ、そうですね。去年TEDxTohokuに出たんです。その時ですね。(※小岩さんのTEDxTohokuでのトークはこちら)

金:
ぼくは地元が八戸なんで、えんぶり(※八戸を代表する民俗芸能。国の重要無形民俗文化財に指定されている)。

小:
ああ、えんぶりですね。あれもかっこいいですね。こんな長い、烏帽子というきらきらの帽子をつけて。えんぶりをやってる人たちは、基本的にプロじゃなくて、一般の普通の、その辺でお酒を飲んでいるような人。そんな普通の人が、その時になるといきなり衣装をしっかり着て、「やるぞ!」ってなって。で、やった後はみんなで集まってまた飲むっていう。そんな風に集落を繋いでいく役割を持っているんじゃないかな。
震災があったことによって、それぞれの土地にずっと眠っていた芸能が、ほじくり返されて出てきた。つまり、30年くらい前までは普通にその土地で行われてきた芸能があったんだけど、子ども達が興味がない、ということで続けられずに一旦休んでいた。震災で、自分たちの地区がなくなってしまったぞ、っていうことになって、その土地や記憶をなんとかしたいって、何かしら残していきたいということで、土地の名前がついている踊りを掘り起こしてやることになった。そういうのがいま、沢山あります。
大体どこの踊りでも地名が頭についているんですよね。ぼくのところなら舞川鹿子躍って、舞川地区の鹿踊ですし、(岩手県宮古市)夏屋地区には夏屋の鹿踊がある。まあ普通に話していても、夏屋とか舞川とかは知らないですよね。でも、その土地の名前を冠につけて踊り続けている人が沢山いる。そういうところがやっぱり岩手・宮城・福島の凄さだと思います。国内の中でもかなり芸能が多くある地域ですし、今回の震災でほじくり返されたものが、いま形になって再び出てきたというか、形に残さなくちゃいけない、っていう人たちが増えてきたことが、いまみなさんの注目を浴びるきっかけになっていると思うんです。
それに、やっている人たちも年寄りばかりと思っていたら意外と若い人も多いです。例えば、岩手の沿岸部、釡石や大槌なんかには、虎舞っていう踊りがあります。虎舞自体は三浦半島とか、八戸にもある踊りです。海の方、沿岸部にある踊りですね。虎舞はもともと郷土芸能で、それが民俗芸能・伝統芸能になった、と思われがちなんですけど、いまの虎舞は沿岸部の若い人たちが、「あれ、かっこいいから俺らやりてえ」って自分たちが作り上げた芸能なんです。だからあれは伝統芸能でもなんでもない、っていうことではなくて、自分たちの地域の名前を関しながら○○虎舞って言いながらやってるのが凄いな、って。その地区に住んでいる人がとにかく踊 りたいからっていう理由でやっている、そしてそれを外から見にくる人がいる、って知ってびっくりしました。