東北STANDARD

カネイリミュージアムショップ

協賛: キヤノンマーケティングジャパン株式会社

岩手県盛岡市

鹿踊の意味と発祥

金入健雄(株式会社 金入/東北STANDARD 代表/以下、金):
鹿踊を拝見させていただきましたが、想像以上に激しかったですし、あれを15キロの衣装を着けて踊られるのは相当辛いんじゃないかと思います。普段の練習も相当ハードなんですか?

小岩秀太郎(以下、小):
普段の練習は、週2〜3回やっています。
そもそも鹿踊は、必ずお盆の時期にやるものと決まっていて、昔はお盆の前、旧暦でいうと、七夕の7月7日頃から9月頃の期間しか踊れないようになっていました。その頃は、こういう踊りを外に持ち出すなんてことは当然できなかったし、(映像内のイベントのように)各地域の鹿踊が地域を出て集まったり、踊ってはいけない時期に踊る、今日みたいに鹿頭を持ち出す、みたいなこともタブーでした。そもそも、その時期しか踊っちゃいけないものだから、装束なども外に出さなかった。たぶん、冬場とかは農作業もできないから、家の中で身体を作るとか、そういう練習をしていたんだと思います。家の中だとうるさくて太鼓も叩けないから、自分の口で太鼓の……口三味線のようなことをやりながらリズムを覚えていく、ということをやっていたらしいんですよね。

今はそういうこともなくなって、装束も道具も外に出せちゃうので、先ほど言ったようにいつでも練習できるような形にはなっています。僕は今、東京に住んでいるので、東北出身者が集まって鹿踊の踊り方を忘れないために練習をしていきましょうっていうことで「東京鹿踊」という団体を作って練習しています。

金:
鹿踊を踊られるときに、チームといいますか、何人かで踊ってらっしゃると思うのですが、若い方と年配の方の比率はどういうかんじなんですか?

小:
鹿踊は8人で踊るというのが決まりなんです。チームということでいうと、踊り手だけじゃなく、それ以外に世話をする人がいます。5〜6年前までは平均年齢が70歳くらいでした。ここ数年、僕も東京で鹿踊についてお話しさせてもらったり、インターネットを通じて紹介したりしていくうちに、東京でも地元の岩手でも、鹿踊に興味を持つ若い人たちが増えてきたんです。それでいまはもう、平均年齢が30歳くらいになってしまって、若返り過ぎちゃってちょっと心配なんですよ。20代前半から70代まで。その中には踊ってる人も踊ってない人も含まれますけど、組に入っている人でいうとそんなかんじです。

金:
鹿踊がどういう文化なのか、もう少し教えてもらえますか?

小:
鹿踊というのは、基本的には関東から北にある郷土芸能なんですね。
みなさんも「獅子舞」っていうのは聞いたことがあると思うんですけど、獅子舞と鹿踊は若干意味が違うんですね。獅子舞は、正月に頭を噛みに来るものですよね。その”獅子”とはライオンのことで、ペルシャとか中国とか、朝鮮を通って日本にやってきた、その時はまだ誰も見たことがない空想上の生き物でした。京都とか奈良とかに、渡来文化として日本に広まりました。
一方で「鹿踊」。
こちらの「鹿(シシ)」とは、「山に入って獲ってきた獣の肉」のことを指す言葉でした。イノシシというのは「亥」のシシであり、鹿(しか)は、「鹿(か)」のシシとよばれていました。ちなみにカモシカは古語で青獅子(アオジシ)とよばれていました。つまり「シシ」とは、山の獣の肉のことだった。その、「シシ」のために踊る文化、つまり山の文化、縄文文化みたいなものが東北地方に多くて、そこで暮らしていた人が獣のために踊っていた踊りが、鹿踊です。
いま一般的に「鹿踊」と書いて「ししおどり」とよばれている文化は、岩手県とか宮城県とかに多いです。鹿踊にも系統があって、「太鼓踊り」っていって、太鼓を腹につけて踊る踊りとか、身体に長い幕をつけて、それを振りながら踊る「幕踊り」という踊りがあったりします。それはちょうど昔でいう”藩”でわかれていて、遠野とか盛岡藩南部領に所属していた地域と、仙台の方とかの伊達藩の地域とは踊りが違います。遠野とか北の方の南部藩には「幕踊り」が多くて、それより南の伊達仙台藩だと「太鼓踊り」が多い。どちらも鹿踊と呼ばれています。
どちらにしろ、だいたいお盆の時期に始まって、9月くらいまでの時期に踊られます。もともとは鎮魂とか、供養の踊りでした。山で獲れた獣をいただいて感謝し、より多く獲れるように祈願し、その獣を供養するための、鎮魂のための踊りだったと思います。その獣の供養がいつしか人間の供養、お盆の供養に踊られる踊りになって、そこに豊作祈願というものもくっついてきた。まあ第一にはやはり鎮魂供養がメインですから、もともとはお寺や墓地で踊られてきました。新盆の時には家々をまわって、前年に亡くなった方の位牌に向かって踊る。その時は供養の歌を歌いますね。