東北STANDARD

カネイリミュージアムショップ

協賛: キヤノンマーケティングジャパン株式会社

岩手県盛岡市

怪獣的な、鹿踊の装束

金入健雄(株式会社 金入/東北STANDARD 代表/以下、金):
いまお話にも出てきた、鹿踊の特徴的な装束について、少し教えてもらえますか?

小岩秀太郎(以下、小):
たとえば、この顔の部分は「鹿頭(ししがしら)」という名前で、鹿なのに色が黒い。それは山伏とか修験者が使っていた獅子舞(東北では「権現様(ごんげんさま)」と呼ばれることが多い)の影響を受けて黒くなったと考えられています。そこに本物の鹿の角をつける。この鹿の角もこういう風に4つにわかれていないといけない。4つの枝が出ていないといけない。これはちょっと欠けてますけど。それと、この髪の毛。鹿なのになんでこんな毛がついているのかはよくわからないんですけど、おどろおどろしさを出すためなのか、異様さを醸し出すためなのか、まあこれは馬の毛を使っています。いまは馬が減っているので、手に入れるのが難しいんです。
背中についているのは「流し」といいます。日本に古来からある伝統芸能で「舞楽」というものがあるんですけど、これの影響を受けてるんじゃないかな、と思っています。舞楽や雅楽の衣装にもこれに似たようなものがついているんですよね。この「流し」には、スサノオの絵とかいろいろなものが描かれます。他にも「南無阿弥陀」って書いてあったり、「和歌」が書いてあったり、地域によって違ってきます。

そしてこの家紋のようなものが「九曜の紋」で、これは伊達家からもらった許可証のようなものだと言われています。基本的に伊達家はあまり芸能を推奨したくなかったようですが、鹿踊はその中でも推奨されたうちの一つで、この紋をもらったので、踊りを踊ることを許可されていたようです。だから、この紋はどこの鹿踊の組でも染め抜かれています。伊達家の家紋はいくつかあり、そのうちのひとつが「九曜紋」。それをもらったという形になります。
幕は、麻でできています。あとは袴を履いたり、「ささら」と言って、3メーターくらいの竹に白い紙を巻いたものを背中に背負います。このささらは、天に向かって伸びているので、そこに神様を下ろす役割を担っていると言われています。「神籬(ひもろぎ)」と言われますね。「神籬」って漢字が難しいんですけど、神様が降りてくる「依り代(よりしろ)」のことですね。神社などで神官の方が白い和紙をついた棒(注:大麻「おおぬさ」)を振るじゃないですか、そういうものを高く伸ばしたんじゃないかな、って思っているんですけど、やっている僕も良くわかりません。さらに、ささらで地面を叩く動作が結構ありますが、この神聖な道具で土地の悪霊を鎮め、払う、という役割もあるのかと思います。
あとは太鼓をつけて、叩いて、踊って、歌を歌う。さっきも言った「太鼓踊り」系の人たちは、歌って踊って太鼓を叩く三拍子揃った踊りをしなくちゃいけない、ということです。
というようなことが、本当にその土地で伝わってきたのかというと、たぶんそんなことは無いと思っています。踊り手は普通の人だし、全員が字を読めるわけでもないし。それぞれの地域が、それぞれの解釈で取り入れてきたものなので、全部に意味があって、それが本当かというのもわかりません。地域ごとの文化があったんですよね。こういう鹿踊のような芸能を見るときには、そういう思いを感じながら見てもらうといいかなと思っています。

金:
なるほど、おもしろいですね。では、鹿踊の歌や踊りにはどういった特徴があるんですか?

小:
そうですね。歌に関して言えば、その当時、つまり江戸より前の室町とかの時代に爆発的に流行った流行歌を歌ってるんじゃないかと言われていますので、いわゆる当時のポピュラーソングなんですね。だからたまにびっくりするんですけど、九州とかにも同じ歌を歌う芸能があったりするんです。
僕たちは基本的にはその土地で暮らしていて、そんなに外に出ないじゃないですか。だから、鹿踊の歌なんて、絶対ここの土地にしかないものだと思って暮らしてきたので、協会に入って全国の芸能を調べているうちに、「あれっ、この歌知ってるぞ、ウチの地元の鹿踊と同じだ」というようなことがたまに起きるのでびっくりしますね。
踊りに関して言えば、本当かどうかわからないのですが、農民が踊るので腰が低い、という説があるんですよね。でもそれは、商人が踊っても腰が低くなるかもしれませんね。日本人的な身体の使い方をしながら、腰の落ち着きどころがどこかと考えたら、比較的低い体勢になることは多いと思います。
あとは、さっき言ったようにジャンプをしたり、足をこう前に出すという動きは土地を踏む動作、これは山伏修験とかがよくやる「反閇(へんばい)」という呪術的なステップの一種なんですが、土地に悪霊がいるのでそれを封じ込める動作なのではないかと思います。わざと音がするような踏み方をすることによって、悪いものがいなくなりますよ、という言い伝えが結構多く伝わっていますね。