東北STANDARD

カネイリミュージアムショップ

協賛: キヤノンマーケティングジャパン株式会社

青森県八戸市

東北スタンダード13 デコトラ

2017年2月11日、夜明け前。 ぼくたちは雪がちらつく仙台から、山形県の上山市(かみのやまし)を目指して車を走らせる。
夜が明け、その城下町に近づくにつれ雪は勢いを増し、目的地である「月岡ホテル」の駐車場に車を停めた時には、上山市は深い雪に包まれていた。
ぼくたちは膝下まで積もった雪の中を歩きながら、神様の使者たちが集まっている月岡ホテルの宴会場に向かう。

——「カセ鳥」 この町で約380年前に発祥し、失われ、そして再び復活した奇習。 その姿を一目見るために、ぼくたちはこの街を訪れたのだった。

神様になる準備。

朝8:30。
現代における神様の使者たちの集合場所になっている、月岡ホテルの宴会場。
大沢現会長の言葉通り、そこには30人余りの人々が、これから始まる奇習に向けて少し興奮した様子で始まりを待っている。
ひさしぶりに会って再会を喜び合う人、初めて参加するのか先輩に質問を繰り返す人、すでにお酒を飲み始めて盛り上がっている人。中には女性の姿や、外国人の姿も散見する。
神様になる前の、上気した姿。

しばらくして大沢会長が登場し、参加者一人一人の名前を読み上げ、これまでの参加回数や経歴などを簡単に紹介をしていくが、その情報が間違いだらけで会場が笑いに包まれる。
とても和やかな雰囲気。東北らしい、器の広さ。

参加者はふたつの班に分けられ、それぞれの班長を中心に踊りの練習を始める。この踊りは復活の際に作られたものらしい。

加勢鳥保存会の初代会長 鈴木邦男氏は語る。
「もともとのカセ鳥には、踊りというものは無くて、ただ街中を練り歩くということをやってたんですよ。だから、昭和61年かな、わたしと仲間で、歌に合わせた踊りをやりたいと思って考えたんです。秋田のわらび座の方に、2年間お邪魔しましてね。歌と、歌に合わせた踊りと、それと鳴り物。鐘とか笛とか太鼓とか、そういうのを考えてもらいました。振り付けをしてもらったと。それがいまのカセ鳥と、復活前のカセ鳥との大きな違いだと思っております。」

加勢鳥保存会の方々が歌を歌い、古参の人々が初参加者に踊りを教える。
初代会長が作ったとされるそのシンプルでかわいらしい踊りを、みんなで習得していく。

練習が一通り終わると、いよいよ着替え。もちろん男女が分かれ、服を脱ぎ、さらしを巻いていく。慣れた先輩たちは、ボディクリームや絆創膏を回していく。
ケンダイの藁が体に擦れるのを防ぐボディクリームと、乳首に傷がつかないように絆創膏。
誰もが学芸会を目前に着替えるこどものようなはしゃぎようで、さらしを巻きあい、ボディクリームを塗りあっている。

神様の使者になる準備が整っていく。

9:30
参加者たちは、わらじを履いて上山城に向かう。
外に出ると、あの重く降りしきっていた雪が嘘のように、晴れ間が覗いている。
日の光を浴びながら舞う雪は美しく、即席の使者たちも神々しく見える。

上山城の広場には大きな焚火が焚かれ、その周りにカセ鳥を待つたくさんの人々が集まる。
昔もきっと、こんな風に楽しまれていたのだろう。
さすが元商家が建ち並ぶ町、ということもあり、人の集まるところには商人も集まる。
ケンダイを模した蓑をかぶった売り子の子供が、カセ鳥のイラストが描かれた手ぬぐいや絵葉書を売りにくる。

そして祈願式が始まる。