東北STANDARD

カネイリミュージアムショップ

協賛: キヤノンマーケティングジャパン株式会社

東北STANDARDの活動を通じて、東北6県の伝統文化を目の当たりにしてきた金入健雄。
自らが現地に赴き、職人さん達との会話や現場の風景を見て、
感じたことをセレクトショップとして表現しました。
その名もKANEIRI STANDARD STORE。
岩手県を中心とした東北の工芸品やデザイン・アートグッズ、書籍に加えて、
県内外の工芸家・アーティストと共に作り上げたオリジナル製品の販売も行っています。
単にモノを作り、販売するだけでなく、「東北」が持っている熟成された地域性や個性を発信していく場、
それがKANEIRI STANDARD STOREです。

岩手県盛岡市

金入健雄 Takeo Kaneiri

1980年青森県八戸市生まれ。株式会社金入代表取締役社長、 東北スタンダード株式会社代表。せんだいメディアテーク、 八戸ポータルミュージアム「はっち」にてカネイリミュージアムショップを運営。東北の工芸品や文房具、書籍などのセレクトを通じて東北の魅力を発信し続けている。

INTERVIEW

東北 STANDARD 代表の金入健雄が語る、新しく立ち上げた KANEIRI STANDARD STORE への思いやこれからの東北 STANDARD のこと。

東北で産まれたから、
東北のことをもっと知って、伝えたいと思った

もともとは、八戸と仙台で東北の工芸品やデザイングッズを集めたKANEIRI MUSEUM SHOPというお店を経営していたんですね。それで東北で起きた震災の後に、何人かからお声がけいただいて、東京や他の地域で東北の工芸品を販売する機会をいただきました。そんな活動をしている中で、「東北の魅力ってなんですか?」って聞かれた時に、それにきちんと一言で答えられなかったんです。
商品を販売する人間として、東北で産まれ育った人間として、もっと東北のことを学び、そしてその魅力を伝えなくちゃいけない、そう思って始めたのが東北STANDARDというプロジェクトでした。

東北に息づくエッセンスを
工芸品の中から見つけられたように感じた

まず東北を知るにあたって工芸品を選んだのは、やっぱり歴史の中で生き抜いてきたということ、その時代時代に細かい変化があったりとか、あるいは変わらないところがあったりとか、時代時代の生きる知恵みたいなものを感じることができるかなと思ったからです。それに、同じ技術でも、地域によって特徴が違ったりとか、そういう差異から東北をもっと知れるんではないかと考えました。工芸家や作家さんのお話を聞くたびに、工芸品に込められた、その奥にある歴史や文化っていうものをもっともっと知りたくなってきた。知れば知る程わからないことが出てきました。それは新しい気付きでした。

南部裂織 沢山の布が組み合わさり、色鮮やかで美しい布が出来上がる

南部裂織から感じた、東北のエッセンス

それでも、東北に息づくエッセンスのようなものを感じることがあって、例えば南部裂織という技術があるんですけど、古い布を裂いて織って、沢山の布を組み合わせてリサイクルして新しい布を織るんです。東北特有の厳しい自然の環境だったり、そういう中で産まれてきた工夫だと思うんですけど、昔の農家の女性が冬にやる仕事、というだけではない美しさや知恵や魅力を感じたんですね。

南部裂織をやられている工芸家の井上澄子先生がおっしゃっていたんですけど、裂織を織る元となる裂いた古い布を持っていらして、それは100年前の布なんだそうなんです。先生は「これは今ではもったいなくて織れないんだよ」って話していらっしゃって、それは単純にモノとしてというわけではなく、100年前の思いを先生が引き継がれて、古い布に込められた思いみたいなものごと大切にしていらっしゃるんだなあと感じました。同時に、先生が作られる裂織という作品にも、100年先まで続く美しさがきっと残るんだろうなと感じて、深く、すごく感動したのを覚えています。

新しいも古いも無い、赤べこ

福島県の赤べこで有名な野沢民芸さんを尋ねた時には、「いまの赤べこと昔の赤べこの違いってなんですか?」という質問をしてみました。そうしたら、「赤べこに新しいも古いもないんだよ」「自分が作るものは変わらずにずっと同じものを作り続けてきたんです」っておっしゃられて、その時にもまた感動したのを覚えています。それこそ何百年も前から同じものを作り続けていて、そのものが地域に愛されて残っているということ自体がすごいことだなと思いました。変わらずに残っている地域の文化。それがそこにあるってこと自体が、東北の魅力なんじゃないかって今は思っていて、つまり、この大きな変化の時代、先がどうなるか本当にわからない時代の中で、そういった自分のルーツというか、軸が残っている地域に住んでいるっていうこと自体がすごく幸せなことなんじゃないかなって感じています。

会津張り子 赤べこに丁寧かつ素早く筆を入れる

南部鉄器 高温の釜から磨く前の鉄瓶を取り出す瞬間

進化を続ける職人のこだわりを感じた、南部鉄器

岩手県を回った時には南部鉄器の岩清水久生さんに取材をさせていただきました。その中でも一番印象に残っているのが、「このテクスチャーはぼくが初めて作ったんです」とおっしゃられた言葉でした。何百年も作り続けられてきた南部鉄器という工芸品においても、常に新しい技術を産み出そうとチャレンジする職人さんがいる。過去の南部鉄器を見せていただいたんですが、岩清水さんが作った南部鉄器は確かに過去の南部鉄器と表情や質感が違う。何百年と培われてきた技術が、まだ進化しているんです。これは本当にすごいと思いました。今の時代に受け入れられる価値を、新しい技術を産み出すことで創り上げようとしている。
その努力がないと廃れてしまい、いつかは伝統自体がなくなってしまう。そうならないよう、伝統をベースに新しい価値を産み続ける、その積み重ねが伝統工芸だと考えると、また違った見え方になりますよね。

会津張り子 震災復興の願いを込めた起き上がり小法師「願い玉」

じゃあ伝統工芸、ってなんだろう?

そう考えると、伝統工芸ってなんだろう、っていう問いにも辿り着く訳なんですけれども、じゃあ国から指定されたものが伝統工芸なのか、と考えるとそれが唯一の答えではないような気がしています。例えば、福島の大堀相馬焼という焼き物の工芸品がありますが、東日本大震災の影響で窯が壊れて、避難せざるをえなくて、元のままの工法では相馬焼が作れなくなってしまいました。私たちが取材させていただいたのは、浪江町からいわき市に避難を余儀なくされつつも大堀相馬焼を創り続けている近藤学さんでした。窯も、土も、これまでのものとは違うけれども、近藤さんが作って残していくものに込められた思いや宿っている魂みたいなものは何なのか、っていうことと、近藤さんご自身からも「自分たちが作るからには大堀相馬の窯元を名乗る」という決意のようなものを感じたりして、それをどう呼ぶべきなのか、そこに感じた東北のエッセンスをどう伝えるのか、そういうことを考えました。

一方で「新しいも古いも無い」赤べこを作り続けている野沢民芸さんは、起き上がり小法師も作っているんですが、工芸品自体は変わらなくても、震災の影響もあって、人々が起き上がり小法師に託す思いが変わったというか、倒れても起き上がる起き上がり小法師が、震災で被災された方達の希望の象徴になったということもあります。そういうきっかけを元に、新しい工芸品が産まれたりもしています。それは間違いなく東北で産まれたものだし、伝統工芸ってなんだろう、ってやっぱり難しいですね。

東北STANDARDを振り返って

東北6県を回って歩くなかで、「東北STANDARDの活動って何なんだろう」って何回か考え直したことがあります。その時に思ったのは、工芸品を販売する立場の自分がそれをきちんと自分の物事として捉えたいということでした。そうすることで、より丁寧にその作品のことを考え、知って、もっと好きになれる。売る側の自分がそのように思っているってことは、きっと東北の工芸品を買いたいって思ってる方も同じように、ただ工芸品を手に取るだけではなくて、自分たちのルーツや誇りとして、生活の中で東北の工芸品と関わりたいんじゃないかなと思って。そのためにもまずは自分たちで伝統や文化や性質を学び、発信するプロジェクトなのだなと実感していきました。
やはり東北を、自分の地元をより好きになりたい、なってもらいたい。そう感じているので、本来生活していく中では見えづらいんだけれども、元々そこに備わっていた性質や文化、魅力について取材を続けていきたいなと思っています。

「WALL1」と名付けられたギャラリーに展示されている田附さんの写真

STORE内にはステーショナリーやポストカードなどの日用品も揃う

KANEIRI STANDARD STOREを作った意義

東北STANDARDの活動の延長線上にあるKANEIRI STANDARD STORE、このお店を立ち上げる上で、これまでのミュージアムショップとの違いも意識しつつ、二つのことにチャレンジしました。

一つは、販売だけではなく、東北の性質や文化自体を紹介できるような取り組みができないか?っていうことを考え、東北をテーマに活動されているアーティストやクリエイターの方々の作品を、岩手で展示しようと思いギャラリーを作りました。第一弾として田附勝(たつきまさる)さんの『東北』という木村伊兵衛賞を受賞された作品の中から川井村の鹿踊の写真を展示しています。田附さんは震災前から東北のタブー視されてきたような場所に入っていって写真を撮られていますが、時代の変化の中でもその場所に残っている本当の東北の姿を写真に収められてきた方です。田附さんの視点を通して東北に変わらずに残っている物事を見ることができる。その方の作品を一番最初に展示するということは、東北STANDARDのプロジェクトをより深めていくためにも、とても意味のあることだと思っています。

二つ目は、日常的に使う道具、ステーショナリーやお皿なども用意していて、それらと一緒に東北の工芸品を並べることで、より日常的な感覚でお客様に商品を見ていただきたいなと考えています。
というのも、これまで文房具も扱ってきたなかで、例えば手紙を書くというその行為自体は東北的なんじゃないかとすら今は感じいて。けれども部屋の中で誰かにゆっくり思いをしたためる時間というのはこの先どんどん無くなっていくんだろうなって、そういう風に感じています。その文化を残していくことも自分のできる一つの役割として捉えていて、なので誰かに気持ちを伝えるとか手紙を書くって行為自体も東北STANDARDの一つとして今は考えています。

PEOPLE

八戸市ポータルミュージアム「はっち」に工房を構え、ワークショップの開催や裂織製品の生産を通じ、広い世代に南部裂織を伝えている。

伝統的な紺色のこぎん刺しを継承しつつも、現代に合わせた色の製品を開発し、伝承と普及に努める。また数多く存在するこぎん刺しのパターンも収集している。

父、豊琳さんは伝統的な技術を次世代に渡すべく創作活動を続けている。震災復興の祈りが込められた「願い玉」は娘、美奈子さんの作った新しい張り子。

浪江町にあった窯元が震災後に移住 を余儀なくされ、親子でいわき市に 移住し創作活動を続ける。賢さんが 取り組む青磁器「innocent blue」シ リーズは新しい大堀相馬焼への挑戦。

鉄に魅せられ、鉄の新たな質感に挑戦している。「焼き肌磨き」と呼ばれる何百年も続いた歴史の中に未だ登場していなかったテクスチャーを産み出した。

全国の職人との交流を通して、様々な技とのコラボレーションによってiPhoneカバーなどの新しい秀衡塗の製品開発を行う。

祖父の代から続くこけし屋を継ぎ、100種類の顔を持つこけしを産み出している。おばあちゃんからは最高の褒め言葉にあたる「こけしに似ている」とよく言われるそう。

昔の常盤紺型の素敵な模様をモダンだと感じ、手ぬぐいに再現することで現代に甦らせている。

笹野一刀彫の職人として国内のみならず海外でも多く実演を行い、広く普及に努めている。彫る際の無駄のない動きは見事。

元々女性の仕事であった針仕事を男性の視点から作ることで、より様々なシーンに合わせて選ばれるよう制作を続けている。

世界で唯一の産地である角館で手作りであることにこだわりつつ、海外への販売も積極的に行い、樺細工の普及に努める。

父・慶信さんが世界中を歩いて集めた各地の曲げ物からインスピレーションを得て、オリジナルの曲げわっぱを産み出している。

カネイリスタンダードストア

岩手県盛岡市盛岡駅通り 1-44
フェザンパークテラス 1F
営業時間 10:00-20:30
tel 019 613 3556
fax 019 613 3557

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