東北STANDARD

カネイリミュージアムショップ

協賛: キヤノンマーケティングジャパン株式会社

青森県八戸市

東北スタンダード13 デコトラ

2007年に刊行された、写真家・田附勝さんの初写真集『DECOTORA』。
写真に映し出された数々のデコトラたち。発想と技術と、何よりも誇りを前面に押し出した圧倒的な自己主張は、乗り手であるトラッカーの生き様をありありと表現している。彼らは何を思い、何を目指してトラックを飾るのか。青森県八戸在住の生きる伝説、「The originator of the decoration trackーデコトラの創始者」こと夏坂照夫さんにお話を聞きました。聞き手はもちろん田附さん。夏坂さんの口から語られる、イマジネーションとクリエイティビティの出発点は、ぼくたちが想像しているクリエイティブの概念をやすやすと塗り替える、こだわり抜いた男の美学。ファストファッションだか量産型だかは引っ込んでろ。これが自己表現、これぞアート。八戸発の暴走トラック、全9回に渡る圧倒的ボリュームでお届けいたします。

常識を破るための発想力とトラック野郎の日常

N:その頃になると今度はマーカーランプ(*7)っていうのが流行ってくるわけ。

*7 マーカーランプ:トラックの側方に取り付けられる「側方灯」のこと。

T:まだ「トラック野郎」なんて言葉も無い時代ですよね?

N:ないないない。トラックはステンレス系の鉄板ばかりでできてるじゃない? だからちょっと光が欲しくなってくる。最初は一個だけ後ろに付けて。

T:後ろに。そんな時代があるんですね。

N:うん。で、その後、前に2個付けて。

T:そういうことをやってる人はあんまいなかった?

N:いなかった。
そもそもそれまでは「マーカーランプ」なんてもの自体が無かったから。トラックってバッテリーがあるから電源はとれるわけ。だから電球を付けようと思えば付けれるの。でも雨に濡れるとすぐに電球って切れるでしょ。色々工夫するんだけど、あんまり上手くいかない。そういうときに、ある部品屋が雨でも電球が切れない「マーカーランプ」ってのを発売して。まあ最初は、前とか後ろとかに付けるだけだったんだけど、「これ、いっぱい付けても良いんでしょ?」ってなる。

T:ってなる(笑)

N:なるでしょ(笑) ところが昔はバッテリーが弱かったのさ。

T:そうだね。

N:ダイナモ(車の発電機。バッテリーの充電をする)も弱かったの。

T:どうしようってなるわけですよね。

N:バッテリーは弱い。ダイナモは小っちゃいと。電気をいっぱい発電しながら、たくさんランプを付けたい。そこでみんな大体行き詰るわけ。でもそこで俺は「あ、観光バスって色んな装置がついてるな」って思いつくんだ。観光バスのダイナモ付ければいいんじゃないかって。

T:あーなるほど。

N:そっから始まった。バッテリーが小っちゃくても、発電する量が大きければ電気が付けられると。うん。

T:で、マーカーが増えると。

N:増える。で、増やした。4つ、5つと増やしていく。自然と周りが見やすくなって運転しやすくなる。そしたら、もっと前に付けようとか、色々やって、上にも付けた。そしたらこの行灯を付けたシートデッキの周りにも付けたくなるじゃないですか。それは俺が発端。これは八戸の方が早い。そのトラックを見た銚子とか茨城の連中が「かっこいい!」ってなるわけだ。

T:それは八戸から魚を積んで行くときに他の人に見られるんだ。変わったことやってるから。

N:そうやって、お互いに「なんだあれ!」って。見て盗む(笑)
で、俺たちの場合は「日除け」。太陽が眩しいから、福島とかいわきのトラックにはバイザーがついてたのね。俺たちは「おいおい、なんだよあれ」ってなって。福島とかいわきのトラックのやつらはマーカーランプとか行灯とかつけ始めて、俺たちはバイザーを真似しようぜって。こう、お互いの良いところを取り合って。

T:なるほど。当時ってバイザーの規制ってあったんですか?

N:みんな作ってた。うちらはなんでもそうだったよ。マーカーランプをそれだけで付けるのはみっともないって思ってて。タバコの灰皿の……昔ステンレスの灰皿あったでしょ。

T:ありますね。

N:あれを台にしてマーカーランプを入れると、反射するじゃないですか。そういうのを考えるわけ。人のやってないことを考えてるの。

T:それは例えば八戸から銚子とか、走ってる最中に考えるんですか。

N:そうだね。色んな車も見るし。ちょっと変わった車とか見たら、そのまま真似するんじゃなくて、自分流に考えるわけ。メシ食うときとか、寝るときにも考える。真似したって思われたくないから、金物屋さんに行ったり家具屋さんに行ったりして、色んなものを見つつ自分流に仕立てていく。

T:仕事のことをもう少し教えて欲しいんだけど、例えばトラックって「ただ運転してるだけ」って思ってる人多いじゃないですか。でも実際はどうなんですか?
例えば八戸から魚を持って来ました、と。その時って夏坂さんはどうしてるの? 車の中で待ってるんですか。

N:いやいや。ただ待ってるんじゃないですよ。まずは船が着くと、雇い主の問屋さんから指示が出るわけ。「なんとか丸から魚を買ってるからトラックをそっちに着けてくれ」って。当初はもうバラ積みしちゃう。

T:バラ積み?

N:平ボディに直に積んじゃうわけ。だから板の上に魚がどたどた、もう船から直接。トラックが塩水でダラダラになるわけだ。そのまま、水産物の加工屋に持ってく。加工屋で、加工屋のコンクリートの土間にあおり切って降ろして、それを加工屋の女工さんが拾ったり捌いて加工する。それで、今みたいな干物とか様々な加工品になるわけ。で、俺もそれを手伝わなきゃなんない。

T:乗って走るだけじゃないんだ。

N:辛いのよ。夏ならいいけど冬になってみなさいよ。寒いし雪降るし。辛いでしょ。

T:やっぱそういう辛さがあると、自分の仕事に対して何か思うところがあったの?

N:うん。メリハリというか。仕事の辛さを紛らわすために、自分の個性で好きな事をしたかったっていうのもある。トラックに絵を描いても良いし、カラーを変えても良いし、看板を付けても良いし。八戸のトラックは、そういうところがあったんじゃないかな。看板ブームが終わってからは色がだんだん派手になっていったな。それからマーカーランプとかのランプ類に行って、それからステンレス系が流行ってきて……。
新しい事やろうとしても当時はそんなの売ってないわけだから、誰かに作ってもらわなくちゃならない。ステンレスを折り曲げる機械を持ってるのは屋根屋さん。トタンばさみも持ってるし。で、俺なんかはそういうところに行って相談して作ってもらうわけ。屋根屋に「で、何に使うの?」って聞かれて、「トラックに付けたい」ってなるわけ。で、「どこによ?」って。で、一緒にトラックのところまで行って「ここに付けたい」とか言うの。そしたら屋根屋の方からも「ああ、だったらこういう方が良いよ」って始まって。そこからもまた発展するの。

T:そうやって少しずつ飾ることによって仕事に対してメリハリを……。

N:うん。トラックをさ、誰かに見られると辛さが多少でも軽減していくわけ。

T:なるほど(笑)

N:まあ映画のスターってわけじゃないんだけどね。石原裕次郎とか、雲の上の人だから。憧れてもなれるもんじゃない。でも、トラックを飾ることで一般の人から「すごい」とか言われるじゃない。目立ちたいんだよね。今の若い人は目立ちたかったらさ、服装とかそういうところから始まるんだろうけど、うちらは着ているものなんてどうでも良い。自分が稼いでる道具で目立ちたかった。俺はこれで稼いでるんだぞって。それが原点。

T:例えば、人に言われて嬉しかったことってありますか?

N:それはね、「これ、どうやって作ったの?」って聞かれること。そうすると作り方を教えてやる。それを聞いた相手が真似をする。それが広がっていく。それを全国で見るわけ。宮城でも福島でも銚子でも東京でも神奈川でも。どこでも走ってたから。いまはコンビニが主流だけど、昔はドライブインとかガソリンスタンドとかで人に会うわけさ。「これどこで売ってますか?」「これどこで作ったんですか?」って聞きにくるわけ。嬉しいというか、自慢したくなるよね、そういう時。

T:なるほどね。それは夏坂さん個人も嬉しいし、八戸の名前が売れるっていう嬉しさもあるの?

N:八戸の名前が売れるってのは、トラック仲間だけじゃなくてさ、漁師とか船乗りとか魚屋とか、しういう人たちとも知り合いだから酒呑むでしょ。そういうときに話すんだ。そうするといつもは仕事が辛いな〜って思ってても、話すと楽しくなってくるわけさ。

T:なるほどね。

N:県外に行くと、そういうトラックの話を聞きたいって人も集まってくるし。で、交流するじゃないですか。そこでもトラックの話題で盛り上がる。 だから、デコトラの原点っていうことでいうと、こういうトラックを飾るってのは、うちらより前にある程度やってた人はいたわけさ。じゃあ、日本全国に広めたのは誰だって、そういう話になるわけさ。

T:俺だと。

N:俺だよと。

T:なるほどね。

N:北海道から九州まで走ってきたんだから。もちろんその時の先人たちもある程度は飾ってたんだけど、俺の車は一枚上を行ってたわけだからね。

T:そうですよね。

N:だから人が集まって聞きにきたし、どうやって作ったかを聞かれたら惜しみなく教えてきた。九州に行けば九州の人に。四国に行けば四国の人に。東京行って築地なんかでも良く教えてたよ。
そうやって話したらもう友達でしょ? そしたら次に会った時に「こないだ聞いたの付けてきたよ!見ろよ!」ってなるわけだよ。

T:夏坂さん自身が個人で考えて飾ったものも大事だけど、それが広がって、仲間ができることが……。

N:そう! 仲間が大事。