東北STANDARD

カネイリミュージアムショップ

協賛: キヤノンマーケティングジャパン株式会社

青森県八戸市

東北スタンダード13 デコトラ

2007年に刊行された、写真家・田附勝さんの初写真集『DECOTORA』。
写真に映し出された数々のデコトラたち。発想と技術と、何よりも誇りを前面に押し出した圧倒的な自己主張は、乗り手であるトラッカーの生き様をありありと表現している。彼らは何を思い、何を目指してトラックを飾るのか。青森県八戸在住の生きる伝説、「The originator of the decoration trackーデコトラの創始者」こと夏坂照夫さんにお話を聞きました。聞き手はもちろん田附さん。夏坂さんの口から語られる、イマジネーションとクリエイティビティの出発点は、ぼくたちが想像しているクリエイティブの概念をやすやすと塗り替える、こだわり抜いた男の美学。ファストファッションだか量産型だかは引っ込んでろ。これが自己表現、これぞアート。八戸発の暴走トラック、全9回に渡る圧倒的ボリュームでお届けいたします。

トラック仲間との交流がデコトラ文化を動かす

N:仲間ができると、助け合いが始まるでしょ。ドライブインとかスタンドとか市場がトラック野郎、雲助たちの社交場だったわけ。ねじりハチマキにだぼシャツ、雪駄。一番星の腹巻してたやつもいた。まあ仲間の車とすれ違う時とかにさ……

T:あー! はいはいありますね。

N:今はダンプでもバスでも、待ってくれればこう手を上げるけども。

T:(クラクションを)プッ!とかね。

N:そのプッ!の前は手だったんです。

T:へぇー。

N:で、ただ手を挙げるだけだと格好つかないから、タクシーの運転手見たく白い手袋をするわけだ。

T:はいはい。

N:そうするとある程度、ファッションも流行していくわけさ。みんな白手袋し始めたり。飾り=ファッションになってくる。魚屋のファッションだね。

T:ぼくがデコトラを撮ってきて感じたのは、すごく車を大事にしてるってこと。大事にしてるって思ったのは、さっき夏坂さんも言ってたけど、冬に帰ってきて車を洗うのは大変だって。

N:大変もいいとこよ。

T:でも、みんなちゃんと洗うじゃないですか。格好つけるためにはマナーも大事だし、人間性も大事だし、だから全部が様になってるというか。

N:俺はね、大工の職人やってたでしょ。そこで「道具は命」だよって学んだ。良い仕事をするには、道具は綺麗に研いでおかなくちゃいけない。汚いまんまでサビらかしてたんじゃ、職人として箸にも棒にもかからない。そんなのは「”からやぎ(青森の方言:「なまけもの」の意)”だ」って。良い仕事するんだったら、常に道具は磨いとけって。俺らの道具はトラックでしょ。それは磨いとくしかない。暇あれば磨き、洗う。洗うことによって塩水を落とす、サビない、長持ちする。そういう発想。

T:なるほどね。そういうことも広まったってことでもあるんですよね。

N:そう。洗い方にしても、昔はトラックの表だけ洗ってたんですよ。でも、うちらの先人はタワシ持ってカッパ着て、トラックの下に潜って洗ってたんです。

T:へえ。それくらい……

N:それくらい大事にしてた。高くて買えなかったから。
ちなみに、うちらが長距離トラックやってたころは、一ヶ月で給料が3万円。

T:3万円って、今でいうと?

N:うーん、ラーメンで言うと、その時のラーメンは40円とか50円。街に飲みに行くのに1,000円とか2,000円あれば十分。一般のサラリーマンが月に2万いくかいかないか。

T:あ、じゃあ結構……。

N:うん。当時の建設会社で働くと、賃金が1日1,000円くらい。30日働ければ3万円だけど、雨降ったり現場がなかったりすると30日も稼げないわけ。でもうちらは30日まるまる稼げるわけだ。

T:そうすよね。

N:そう。それに、儲かると魚屋さんがご祝儀くれるわけ。「お前が積んでくれた魚、高く売れたから」って。

T:へえ、じゃあやっぱ「夏坂の車に運んでもらいたい」って人もいるんじゃない?

N:いたねぇ。

T:それは何で? もちろん夏坂さん本人が気に入られるってこともあるだろうし、車が気に入られてってこともあったりするんすか? 例えば、こうやって飾ってる車は縁起がいいから、とか。

N:飾ってるからってのは無かったかな。でも、綺麗な車に運んでもらいたい、っていうのはあったね、魚屋さんだから。さっきも言ったように俺は車を綺麗にしてたから。
あとは、普通の運転手だったから考えないことを俺は考えてた。発想だね。例えば、魚屋の親方さんが「こうやって積めよ」って言った通りにトラックに魚を積むとしても、魚を鮮度よく保ちたい、っていうゴールがあると考えた時に、違う方法を思いつく。そういう時に「ここはこうした方が良いんじゃねえか」って伝える。そうすると「おお、おめえ良いこと言うな」ってなる。他の運転手なんか、そんなこと言う奴は誰もいねえ。だから気に入られてたんじゃないですか。

T:言われたことだけするんじゃないんだ。考えるんだ。

N:俺がみんなに好かれたのは、良く話を聞いたからだよ。魚のことは漁師に聞く。魚屋にももちろん聞く。そうすると色んなことが学べる。この魚はどんな風に鮮度を保てば良いのか、例えばこの魚は脂分があるから氷を使った方が良い、とか。「脂分がある魚は、水に入れとくと脂が抜けちゃうからダメだよ」とか教えてくれるわけ。それを漁師に聞く。そういう学んだ知識を魚屋に教えるわけだ。「漁師がこの魚は水じゃなくて氷を使って積んだ方が良いって言ってた」って。そうすると魚屋は「おお、おめえ良いこと言うな」ってなる。

T:へえ!

N:魚屋も「よし分かった、お前の言う通りに積んで出してみよう」となる。すると、高く売れる。

T:なるほどね!

N:そうすると、「あの人はただトラック乗って運ぶだけじゃない」となる。色んなのを研究してるよと。

T:なるほどね。

N:それも大工の職人やってた頃に学んだ。職人つうのは技でしょ、手しごと。手しごとの技は、見て、聞いて、自分に取り入れて活かさなくちゃいけないから。その魂がそのまんま俺の中にあった。漁師から聞いた技、魚屋の親方から聞いた技、トラックの親方、飾りを作る屋根屋、それに塗装屋。そういう話を聞いていくわけ。

T:全部活かされてるんだね。

N:例えばトラックの(荷台の)シートを作る時に、シートにヒラヒラを付けたかった。シート屋と話して、聞きながら作った。シート屋の技術を見てたから今度は「シートを切って、泥除け作ってくれ」と続くわけ。ただのゴムじゃかっこ悪いから、赤いゴムに白い縁取りをしてくれ、とか。
「こうやりたい」「それはできない、じゃあこうしよう」と話し合いながらね。次は座席の後ろに、高級車の社長連中が付けてるようなレースのカーテンをつけてくれ、と。そうやって、ひとつひとつ話しながらトラックも作ってきた。そうするとだんだん汚い格好では乗れなくなってくるわけ。

T:そうですよね。

N:すると、身なりも綺麗になってくわけ。

T:はいはい。

N:徐々に。それをみんなが真似してくわけ。

T:夏坂さんが一人で色々考えてはいるけれど、それは八戸のみんがいるから可能になったことでもあるんだ。

N:そう。色んな友達、色んな先輩、色んな漁師や魚屋さんなんかに恵まれて話をする機会があったからだね。最終的にはデコトラの発想が生まれたのはみんなのおかげ。俺一人から生まれたわけじゃないです。

T:八戸からデコトラが始まったってことにつながるんだね。